日本広報学会で発表しました

10月3,4日に開催された日本広報学会第26回研究発表全国大会(オンライン開催)で「飛躍的成長をもたらす日本流エンゲージメントの提唱ー現場調査・考察からのアプローチー」をテーマに発表をしました。

飛躍的成長をもたらす日本流エンゲージメントの提唱

―― 現場調査・考察からのアプローチ ――

 嶋谷光洋

要旨:35年間のチームづくりを現場の人たちと取組んできた実績から、社員同士の良質な関係性が業績向上に結び付くことがわかってきた。これらをまとめ、2018年、企業の業績と社員エンゲージメントについての相関関係の調査結果を当学会で発表した。このエンゲージメントへの注力により、チーム力は高まり、雰囲気を明るくする効果があり、問題発生や離職率を減らすリスクマネジメントにつながることが判明した。しかし、エンゲージメントのみでは、飛躍的成長、圧倒的な業績には至らない日本人独特の理由とイノベーションに必要な要素について考察した。

  1. 心理的安全性とイノベーションの関係

人財開発や組織開発の世界では、「心理的安全性が高い組織は業績が高い」とされている。心理的安全性とは、「一人ひとりが恐怖や不安を感じることなく、安心して発言・行動できる状態」のこと。アメリカGoogle社の2012年に発足したリサーチチームが、“チームのパフォーマンス向上のためには、心理的安全性を高める必要がある”と発見・発表して以来、多くの企業が関心を示している。Google解明した効果的なチーム作りに重要な5つの要素とは、①心理的安全性、②相互信頼、③構造と明確さ、④仕事の意味、⑤インパクトである。

より効果的なチームを作る上で重要なこれら5要素の中でも、圧倒的に重要なのが心理的安全性。リサーチ結果によると、心理的安全性の高いチームのメンバーは、離職率が低く、他のチームメンバーが発案した多様なアイデアをうまく利用することができ、収益性が高く、「効果的に働く」とマネージャーから評価される機会が2倍多いという特徴があった。多くの先行研究もほぼ同じ。

しかし、私のこれまでの経験から日本はこの5つの要素では足りない。心理的安全性の前に主体性が必要であると気付いた。その理由をあきらかにする。

2.日本企業の特徴は「自分の強みを活かす」「心理的安全性」が低い

これまで35年間で100社以上の企業にて人財開発・組織開発を担当しながら現場をみてきた。特にチームでのコミュニケーション頻度を高め、関係性をよくすることで会社への愛着を高めるエンゲージメント作りをおこなってきたが、業績が上がるチームと上がらないチームがあることがわかってきた。この1年間では、リアルだけではなく、ネットを活用したチーム作りを行いデータも取得した。これは調査のためのデータではなく、業績向上させるためのチーム作りをするために課題解決のために現場で行った内容である。

2015年に自らが提唱したチームマーケティング成功9要素をさらに現場で整理し、10項目の質問に整理した。チームマーケティングというよりも、関係性を高める視点でエンゲージメントに注力をした項目にした。2019年1月から2020年3月まで30社130チームで変化を追いかけた。アンケートを実施した10項目の内容は以下である。

1.会社のミッション・ビジョン、2.仕事上の自分の役割、3.仕事を遂行する環境、4、自分の強みを活かす、5.自分の働きを認められている、6.心理的安全性7.仲間や仕事への誇り、8.チームへの信頼、9.成長を応援してもらえる、10.仕事を通じた学びの機会

図1は、自己肯定感を高めるワークを実施したチームとしなかったチームでのエンゲージメントの違いを10項目5点満点でメンバー全員が無記名で自己評価した結果をまとめたものである。具体的なワーク内容は、過去、現在、未来を振り返る内容である。ビジョンを描く未来を見つめたワークは多いが、ここでのワークは個人が小学生時代まで遡って過去を振り返る点が特徴である。それがどのような意味を持つことになったのかは後述する。

図1のC1からC10は、上記の項目と合致しており、共通して低い数字が、「C4自分の強みを活かす」と「C6心理的安全性」である。図1の比較から言えることは、自己肯定感を高めるワークを実施しなかったAチーム群と、実施したチームB群では、チームへのエンゲージメントに差がついた。

図1:筆者作成

このデータ以外においても、多くの企業の現場で業績のあがるチームづくりをやってきた。半年や1年、2年という期間と決めて、組織の活性化・業績向上を目指すのである。チームづくりが出だしから上手くいくこともあれば、出だしで躓くこともあり、いつも背中に冷や汗を流しながら、企業の社員と接してきた。おもしろいことに、最初に躓いてうまく進まないチームの方が数年経過しても、その勢いは衰えず今でも高い業績をあげているところも多い。

例えば、小売A社では、マイナス100からスタートして、プラス100になったチームがある。今でもそのチームは業績を伸ばし続けている。プロジェクトのスタート時には、落ちた業績を半年間で回復させる目標設定であった。小売り業の中でもその業界は逆風で、同業の小さい会社は軒並み廃業していた。1年後の成果検討会では、小さなイノベーションがいくつも起こり、業界に逆風が吹き荒れていても部門単位では昨年の2倍以上の業績をあげるなど、多くの成功体験が生まれた。大事なことはここからだ。私たちが関与しなくなってからも伸び続けるチームと、そうでないチームに分かれたのである。飛躍的な成長、大きな成果を出し続けているチームの共通点は何か。比較図とこれまでの経験、考察から2つ大きな特徴を導き出すことができる。

1つ目は「自己肯定感」である。チームで考え、自ら行動し、各人の能力が最大限発揮できる仕組みと機会を提供したプロジェクトでは、日々のコミュニケーションが、「声をかける」「ほめる」「意見を聞く」「情報を共有する」「一緒に考える」などが日常となる。メンバーを認め、尊重し、共に成果を出すことで、「自分は必要とされている」ことを実感しモチベーションがあがる。自己肯定感が高まり、自分が必要とされている。みんなの役に立っていると認識され、メンバー同士のつながりが強くなり、組織の一体感を感じることが出来るのである。

2つ目は「自己効力感」である。業績をあげる手がかりが見つからず、一人で悩み辞めることまで考えていたリーダーたちが解決したい問題をテーブルの真ん中に置いて、同世代のリーダーたちと質疑や議論を交わし解決していく。最初は自分のために行動していた人たちが、一緒に問題を解決してくれるチームメンバーに応えたいという気持ちも手伝って、もっと考えるようになり、熱意を持って大胆に行動するようなる。それが顧客の心を動かし、感謝される小さな成功体験の積み重ねから、「このチームは素晴らしい、自分たちなら出来る!」というチームへの誇りと、「自分は出来る!」という自信と自己効力感が高まっていくのである。

チーム作りの過程の中で「自己肯定感」「自己効力感」が生まれると「主体性」が備わり、外部からの支援がなくても自発的にコミュニケーションをする習慣が生まれ、関係性の質が高まり、会社への愛着というエンゲージメントにつながる。そして、それがイノベーション、飛躍的成長という成果に結びつくことを発見したのである。

3.日本人の主体性が弱い背景にある教育・文化の違い

図1で説明したワークでは、過去・現在・未来について個人で掘り下げ、チームで討議すると説明した。特に過去を振り返るワークが「自己肯定感」「自己効力感」「主体性」につながるのではないかと考えた。これは、欧米企業人の主体性ある背景を、教育思想と企業文化の視点で違いを比べたことから導き出した。なぜ、日本は個人の主体性が育ちにくいのか、そこを掘り下げて比較考察したものが図2である。例えば、ズバ抜けた成果をあげれば年収の何倍ものインセンティブがもらえる評価制度がアメリカにはあるが、日本にそのような評価制度がある企業はほとんどない。

ここからいえることは、日本人には主体性がないのではなく、環境や制度がなかったのである。だからワークの中で過去とその時の感情を振り返り、「自己肯定感」「自己効力感」を確認するプロセスを入れて、共有することで「主体性」を獲得しなおす必要がある。そこを基本としてコミュニケーション、エンゲージメントを高めることがイノベーションにつながるのではないか。

図2.筆者作成

4.まとめ

2018年に本学会で企業の業績と社員のエンゲージメントについての相関関係を発表し、その後の2年間は社員の関係性を良好にして愛着を高めるためのエンゲージメントに注力をしてきた。その中で心理的安全性「一人ひとりが恐怖や不安を感じることなく、安心して発言・行動できる状態」を確保する場づくりも行ってきた。しかし、図1が示しているように、心理的安全性だけではなく、「自分の強み」を発見し着目する必要があることが明らかになった。それはチーム作りのプロセスの中に、自己肯定感、自己効力感を構築する内容を入れることで実現することができる。プロセスに入れるワークとは、過去・現在・未来を描くこと。小・中・高・(大学)社会人それぞれのステージでの出来事を振り返るだけでなく、その時の感情を思い出すプロセスを入れる。どんな気持ちでそこにいたのか、その気持ちは何が原因なのかまで深掘りする。それを共有することで周りが自分を理解し強みに着目してくれるようになると、弱みも曝け出すコミュニケーションが出来るようになる。ここに補完関係のあるチームが出来あがりイノベーションが起こる。そして業績も上がるという構造である。

自分の強みを発見し、主体性を確保する。鍛錬を積んだ武士たちが向き合うが如くコミュニケーションすることがイノベーションを起こす。これを日本流エンゲージメントとして提唱したい。

【文献リスト】

カート・コフマン, ガブリエル・ゴンザレス=モリナ著『これが答えだ!』日本経済新聞社2003

エリック・シュミット,ジョナサン・ローゼンバーグ他著『How Google Works』日本経済新聞出版社2017